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前橋地方裁判所 平成9年(わ)347号 判決 1998年3月30日

主文

被告人を無期懲役に処する。

未決勾留日数中一二〇日を刑に算入する。

押収してある柳刃包丁一丁(平成九年押第七一号の1、2)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、少年であるが、

第一  平成九年三月二日ころ、群馬県桐生市所在古本・ビデオテープ等販売店「A野」において、同店経営者A所有・管理にかかるコンパクトディスク一箱(三枚入)ほか一二点(時価合計約四万一〇八〇円相当)を窃取し、

第二  同年八月一二日ころ、同店において、前記A所有・管理にかかるコンパクトディスク一箱(三枚入)ほか約二七点(時価合計約九万〇〇六〇円相当)を窃取し、

第三  同月二六日ころ、同店において、前記A所有・管理にかかるコンパクトディスク一箱(三枚入)ほか約六七点(時価合計約二一万九四〇〇円相当)を窃取し、

第四  同年九月一四日午後一一時三八分ころ、同店において、コンパクトディスクを窃取するため店舗奥の陳列棚に近づいたところ、同店設置の緊急通報装置が作動して、群馬県桐生警察署員山藤典夫(当時三一歳)外一名が捜査用車両で駆けつけ、下車した右山藤が、同店出入り口引き戸の外側に立ちふさがって、「何をしているんだ。」と声をかけてきたことから、逮捕を免れるため、殺意をもって、所携の刃体の長さ約二一・五センチメートルの柳刃包丁(平成九年押第七一号の1はその柄のとれたもの、同押号の2はその柄の部分)で同人の胸部を突き刺し、よって、同人に右胸部刺創等の傷害を負わせ、同月一五日午前一時二七分ころ、同市織姫町六番三号所在桐生厚生総合病院において、右胸部刺創に基づく心臓貫通創による失血により死亡させて殺害し、

第五  業務その他正当な理由による場合でないのに、同月一四日午後一一時三八分ころ、前記「A野」において、前記柳刃包丁一丁及び刃体の長さ約一〇・二センチメートルのバタフライナイフ一本(前同押号の3はその刃先の欠けたもの、同押号の4はその破片)を携帯した。

(証拠)《省略》

(事実認定の補足説明)

一  弁護人は、判示第四の強盗殺人について、被告人には殺意がなかった旨主張し、被告人も当公判廷においてこれに沿う供述もしているので、以下に検討する。

二  前掲証拠(ただし、乙号証中の殺意に関する部分を除く。)及び被告人の検察官調書(乙八)によれば、以下の事実が認定できる。

1  (本件凶器の形状)

被告人が本件犯行に使用した凶器は、刃体の長さ約二一・五センチメートル、最大刃幅約二・八センチメートル、柄の長さ約一二・八センチメートルの先端鋭利な新品の鋼質性柳刃包丁であり、極めて高度の殺傷能力を有する。

2  (被告人の使用目的等)

被告人は、平成九年四月専門学校調理師科に進学した際、包丁セット(柳刃包丁、和包丁、牛刀、味切包丁、ペティナイフの五本入)を教材として購入し、同年九月に同校を退学したため、これを自宅に持ち帰っていたのであるが、既に三回にわたり同一の古本・ビデオテープ等販売店からコンパクトディスク等を盗み出しており、更に同店から盗み出すに当たって、店側でも警戒していて捕まるかも知れないと心配になったことから、発見された場合に使用する目的で、それまで携帯して行っていたバタフライナイフ(刃体の長さ約一〇・二センチメートルのもの)に加え、右包丁セットの中から最も長くかつ切れ味が良さそうな本件柳刃包丁を持って行くことにした。

そこで、被告人は、持ち歩く際に自己が怪我をしないように、小雑誌を丸めてクラフトテープで止めた鞘を作り、また、逮捕されそうになったら相手を刺して逃げるつもりでいたことから、使いやすいように、柄の部分にも紙を巻いて滑り止めにすると共に手になじみやすい太さにする細工をした。その後、被告人は、右柳刃包丁を両手に握って構え、発見された場合に相手を刺す場面を想定してみたりしたが、その現実感は乏しく、遊び半分の気持ちにとどまっていた。

3  (犯行状況)

被告人は、右鞘付き柳刃包丁とバタフライナイフをウエストバッグの中に入れ、自転車に乗って本件店舗前へ行き、逃げやすいように自転車を駐車中のトラックの陰に停め、付近の様子を窺い、夜間で通行車両が少なくなったのを見定めた後、右柳刃包丁を左手にバタフライナイフを右手にそれぞれ持って、本件店舗出入り口前へ行き、その引き戸のガラスをバタフライナイフで割るなどして同店内に立ち入った。しかし、通行車両があったことから、被告人は、店外に出て様子を窺い、人の来る気配がなかったため、バタフライナイフと懐中電灯をズボンの後ろポケットにしまい、右柳刃包丁を手に持って再び同店内に立ち入った。被告人は、カウンター前付近まで行ったところ、同店に設置された緊急通報装置が鳴っているのに気づいたものの、警備員などが駆けつけるまでにまだ間があるものと思い、コンパクトディスクの陳列棚に向かった。その時、被告人は、近づいて来る車の音に気づき、同店出入り口方向を見ると、勢いよく入って来た車両が同店駐車場ではなく同店出入り口の前に急停車したことから、被告人が、出入り口引き戸のガラス越しにその様子を窺ったところ、屋根に赤色灯が付いていたため、警察官が捜査用車両で駆けつけたことを察知し、窃盗を繰り返していたことを親に知られたり、刑務所に入れられたくないなどと考えて、逮捕を免れようと決意し、手に持っていた右柳刃包丁の鞘を外して引き返し、出入り口前付近で、ガラス越しに右車両の運転席から降りて来る本件被害者を認め、被害者が立った側の引き戸に手をかけて僅かに開けたところ、正対した被害者から、「何をしているんだ。」と声をかけられ(相互の距離約一・六メートル)、更にもう一人の警察官が同車助手席から降りてくるのを認めた。被告人は、引き戸を開けるやいなや約一メートルの至近距離から被害者の胸・鳩尾付近を目がけて、両手で順手に握った右柳刃包丁を自己の腰の辺りから胸の前に突き出して体当たりするようにして出て行った。被害者は、右柳刃包丁を左手で振り払おうとしながら、後ずさりして避けようとしたが、避けきれず右柳刃包丁が左胸部に突き刺さり、被害者が身体をよじるようにしたことから、一旦は抜けた右柳刃包丁の刃が、被告人が刺突行為を続けたため、被害者の右胸部に深く突き刺さった。被告人が、右柳刃包丁を引き抜こうとしたところ、柄のみが取れて刃体部分は突き刺さったまま残り、被害者はその場に倒れた。

4  (受傷状況等)

被告人の右刺突行為により、被害者の左胸部に全刺創管長約一一センチメートルの皮下脂肪組織に達する刺創一個、右胸部に左第四肋骨の胸骨付着部に長さ約三・四センチメートルの刺入口を形成して前縦隔洞に入り、心嚢及び心臓を貫通後、左肺上葉の前内側下部に面状切創を形成して終わる、全刺創管長約一九センチメートルにも及ぶ刺創一個等が生じ、被害者は直ちに病院に搬入されたが、収容時には既に心臓・呼吸とも停止し、瞳孔散大を示す瀕死の状態にあり、受傷後僅か二時間足らずで失血死した。

三  右認定にかかる本件柳刃包丁の形状、被告人の使用目的、細工状況、犯行状況、被害者の受傷・死亡状況等からすると、被告人に刺突行為の際に殺意が存在したことは優に推認できるのであって、被告人は高校まで卒業しており、精神障害も認められず、知能も中の上の段階にある(鑑別結果通知書参照)ことなどからすれば、いかに被告人が人格的に未熟であったにせよ、「突き出した柳刃包丁が被害者に刺さってしまうとか、被害者が死に至るかもしれないと考えている余裕は無かったし、包丁を前に突き出して突進していった時にも、被害者がよけるだろうと思っていた。」旨の被告人の当公判廷における供述部分は直ちに信用し難く、総じて殺意を認める捜査段階の被告人の供述の方が信用できる。

以上の次第で、被告人の殺意の存在を認めたものである。

(適用法令)

一  1 第一ないし第三の各行為について

罰条 各刑法二三五条

2 第四の行為について

(一)  罰条 刑法二四〇条後段

(二)  刑種の選択 無期懲役刑を選択

3 第五の行為について

(一)  罰条 包括して銃砲刀剣類所持等取締法三二条四号、二二条

(二)  刑種の選択 懲役刑を選択

二  併合罪の処理 刑法四五条前段、四六条二項

三  未決勾留日数の算入 刑法二一条

四  没収 刑法一九条一項二号、二項本文

五  訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑事情)

一  本件は、被告人が、同一の古本・ビデオテープ等販売店で、深夜、三回にわたり、コンパクトディスクなどを窃取し(判示第一ないし第三)、更に同店から商品を盗み出そうとして、警察官が臨場したため、逮捕を免れる目的で、所携の柳刃包丁で警察官を刺殺し(判示第四)、その際、右柳刃包丁一丁のほか、バタフライナイフ一本を携帯した(判示第五)事案である。

二  (被告人の身上、経歴、本件犯行に至る経緯等)

被告人は、自動車運転手を父に持つ四人兄弟の長男として出生し、地元の小・中学校を卒業後、隣県の私立高校に進学したが、漫然と高校生活を送り、就職する気もなかったことから、父の意向に従って専門学校調理師科に進学した。

被告人は、父の様子を見るにつけ、仕事が少なくて収入もあまりなさそうであり、食事等もみすぼらしいことなどから、自己の家が経済的に豊かでないと感じ、気に入った衣類やコンパクトディスクを買って欲しいとねだることもできず、かといってアルバイトをして金を作ろうという気にもならないまま、貰った小遣いもゲーム代等に費消していた。

三  (各窃盗の犯行状況等)

1  被告人は、平成九年三月一日高校を卒業し、その翌日同級生と共にボーリングやカラオケ遊びをしての帰路、小遣い銭を使い果たしたことから、専門学校に入学するまでの休み期間中に何をして遊ぼうかと考えるうち、客として出入りしていた本件店舗からコンパクトディスクや成人用ビデオテープなどを盗もうと思い立ち、深夜で同店に誰も居ないのを奇貨として、同店裏の腰高窓の窓枠を揺すり壊して店内に立入り、コンパクトディスク一箱(三枚入)、ミュージックビデオテープ一箱、成人用ビデオテープ七本、写真集四冊(時価合計約四万一〇八〇円相当)を盗み出す判示第一の窃盗行為に及んだ。

被告人は、盗んだビデオテープや写真集を見終わった後、家族の者に発見されないように捨てた。

2  被告人は、同年四月専門学校に進学したが、授業の内容が面白くなく、早退や欠席をするようになり、同年七月から学校に行かず、家で一人でテレビゲームをするなどして遊んでいたところ、同年八月一二日ころ、他の古本等販売店に盗んだコンパクトディスクを持ち込んだところ、盗品であることが発覚せずに売却できたため、更に売却・換金しようと考え、盗品を入れる紙袋と凶器のバタフライナイフを携帯して、深夜、バタフライナイフで出入り口のガラスを割るなどして本件店舗に立ち入り、ビデオテープ約一三本、ゲーム用ソフト二本、コンパクトディスクアルバム一組(三枚入)、同一枚、PHS一台、電話魔王引き替えカード約一〇枚(時価合計約九万〇〇六〇円相当)を盗み出す判示第二の窃盗行為に及んだ。

被告人は、盗んだコンパクトディスクを翌日換金して、ゲーム遊びや買い食い等に費消した。

3  被告人は、夏休み中の小遣いがなくなったため、深夜、前同様の方法で同店に立ち入り、換金目的で、ファミコン用ソフト約一三本、コンパクトディスクアルバム一組(三枚入)、コンパクトディスク約三九枚、写真集二冊、ビデオテープ約一三本(時価合計約二一万九四〇〇円相当)を盗み出す判示第三の窃盗行為に及んだ。

被告人は、盗んだファミコン用ソフト等を売却・換金して、映画を見たり、ゲーム遊びや食事等をし、同年九月六日専門学校を自主退学した後は、就職先を探すこともなく、家でゲームをするなどして遊んでいた。

四  (強盗殺人等の犯行状況)

被告人は、遊び歩く際の衣服や靴などが欲しくなり、再び同店に盗みに行くことにしたが、四回目ともなれば今度こそ見つかるかもしれないと不安になり、これまで携行していたバタフライナイフに加えてもっと強力な武器を持っていくことにし、前記(事実認定の補足説明)欄記載のとおり、包丁セットの中から最も刃が長くかつ先端の鋭利な本件柳刃包丁を選び出し、その鞘を作ったり柄に滑り止めを付けるなどの細工をし、これをバタフライナイフと一緒に携帯して、前同様の方法で店内に立入り、コンパクトディスクを盗ろうとしたところ、駆けつけた警察官に発見されるや、両親に知られたり、刑務所に入れられることを恐れるあまり、逃げることしか考えられず、柳刃包丁の鞘を取り払って、出入り口前に立った警察官にいきなり襲いかかり、両手で握った柳刃包丁の刃先を警察官の胸・鳩尾付近目がけて突き出し、体当たりするようにして出て行き、警察官が凶器を振り払おうとしながら後ずさりするのを構わず突き進み、捜査用車両に阻まれた警察官の胸部を刺突したのであり、ほぼ根元まで押し込まれた柳刃包丁は、被告人が引き抜こうとした際にも抜けず、柄だけが取れ、刀体は被害者の胸に突き刺さったままとなり、後に駆けつけた警察官によって漸く引き抜かれた。右凶行により、被害者は、わずかに唸り声をあげてその場に昏倒し、病院に搬送された時点で心臓停止、呼吸停止、瞳孔散大という瀕死の状態に陥っており、医師らによる懸命の救命措置にもかかわらず、間もなく心臓貫通創による失血のため絶命するに至った。

五  各窃取の動機は、単なる利欲的なものにすぎないのであり、当初偶発的要素の強い店舗荒らしであったものが、盗品を容易に換金できたことから、次第に換金目的の計画的なものに変じて、第二、第三の犯行を重ね、その被害は合計コンパクトディスク等約一〇九点(時価合計約三五万〇五四〇円相当)に達しており、その手口は、深夜、施錠してある店舗に侵入するという悪質なものであり、次第に、換金し易いコンパクトディスク等を選んで多量に盗み出す大胆なものになっており、第二、第三の各犯行にあっては、凶器まで携行し、窃取した成人用ビデオテープや写真集は見た後密かに処分したり、コンパクトディスク等は換金して友人と遊ぶときのゲーム代や食事代に充てるなど、犯情は誠に芳しくない。

加えて、被告人は、発覚の危険性が高くなったことを自覚しながら、断念するどころか、更に強力な武器として柳刃包丁を選び出して細工をし、これを振り回すなどして逮捕を免れる場面を想定するなどして準備を整えた上、右柳刃包丁を手にして店内に侵入し、臨場した警察官に発見・誰何されるや、逮捕を免れるため、同包丁で警察官を刺殺する、前述の残虐非道な凶行に及んだのである。これは、被告人が、自己の欲求を満たすことや、捕まることの恐怖を回避することばかりに気を奪われ、他のことに配慮ができない視野の狭く、自己中心的な性格であることを如実に示している。

被害者は、当直勤務中に緊急通報を受け、相勤務の上司を乗せた捜査用車両を運転して現場に駆けつけ、本件店舗出入り口引き戸の外に立って、中にいる被告人を誰何したところ、突然被告人が戸を開けて柳刃包丁を両手で突き出し突進してきたため、避けきれずに右包丁を胸に受けたのであり、被害者が、当時対刃防護衣を着用していなかったことを併せ考えても、被害者に落ち度があったとはいえない。

被害者は、強い正義感から警察官となり、危険が伴う多忙な職務に熱心に取り組む将来を嘱望された警察官であり、その一方で明るく楽しい家庭を築き、一人暮らしをしている実母への心遣いも忘れない家族思いの側面もあったところ、突然に被告人による凶行の犠牲となり、幼い娘の成長を見届けることもできないまま、未だ三一歳という若さで愛妻らを遺して一生を終えなければならなかったのであり、その無念さは察するに余りある。

被害者の妻は、病室に寝かされた被害者の痛ましい姿に直面して耐え難い悲痛を強いられ、被害者の死によって甚大な精神的苦痛を蒙ったのであって、妻はもとより、被害者の実母や義父らが被告人に対する厳重処罰を求めるのも誠に無理からぬところである。

また、本件が、勤務中の警察官刺殺事件であり、その犯人が少年であったことから、他の警察官ばかりか一般社会に与えた衝撃も大きく、犯行の結果は極めて重大である。

六  なお、本件の一連の店舗荒らしは、高校卒業後の進路選択をきっかけとして、それまでの親子関係の問題とそれを基盤とする被告人の資質面の問題が表面化した結果発生した犯行であり、強盗殺人・銃刀法違反は、自己の行為の予測やその社会的意味の認識が十分できずに、店舗荒らしに柳刃包丁を携帯し、臨場した警察官を殺害しているのであり、その行動の背景には、父親の権威的で支配的な禁止や規制の強い家庭教育に問題があり、被告人も、不本意ながらも他人に迎合して自己の殻に閉じこもりがちであったことから、年齢相応の社会性や現実的な対人関係を身につけないまま成長してきた問題点が指摘できるのであり、本件各犯行は少年非行の特性を強く具有している。

七  ところで、(事後)強盗殺人罪の法定刑は死刑又は無期懲役であり、昭和四九年五月二九日法制審議会総会決定にかかる改正刑法草案においても、強盗罪や強盗致傷罪の最低刑が引き下げられているが、強盗殺人罪の法定刑はそのままとされ、事後強盗も強盗として処断することに変更を加えていない。

本件は、窃盗に着手した被告人が、逮捕を免れるため、殺意をもって、警察官を柳刃包丁で刺殺した事後強盗殺人であることから、原則としてその法定刑である死刑又は無期懲役で臨むべきことになる。

なお、被告人は犯時及び現在も少年であるため、少年法の適用を受けるのであるが、少年法は、犯時一八歳未満の少年に対して、無期刑をもって処断すべきときは十年以上十五年以下の懲役又は禁錮とする、として無期刑の科刑制限をしている(少年法五一条)が、被告人は犯時一八歳になっており、同条の適用はなく、被告人に対し無期刑の宣告を避けようとする場合には、酌量減軽の措置を施す以外ないところ、少年法は、不定期刑及びその科刑制限を設けているため、無期刑を選択して酌量減軽を施すと、最高でも五年以上十年以下の懲役又は禁錮となり(同法五二条一項・二項)、犯時一八歳未満の少年の場合よりもかなり軽くせざるを得ない不都合が生じることがある一方、少年法は少年に対して無期刑を科すものの、七年を経過すれば仮出獄を許すことができる(同法五八条)とし、その後その処分を取り消されないで一〇年を経過すれば、刑の執行を受け終わったものとし(同法五九条)、無期刑の執行の緩和を図っていることからすれば、少年であるが故に直ちに酌量減軽をする取扱いは相当でないと言うべきである。

八  そこで、右の刑法及び少年法の規定及び前記立法状況を踏まえて、本件強盗殺人について、酌量減軽の措置を施すことの当否を検討するに、確かに本件は警察官の臨場に動転した被告人が冷静さを欠いたまま敢行した側面を否定できない事後強盗事案であり、その際の窃盗は未遂に終わっていること、本件の一連の犯行の背景には、前述の家庭教育や被告人の資質の問題があること、本件による逮捕・勾留、少年審判手続や公判審理を経るにつれ、被告人は、自己の犯行の重大性を認識するようになり、反省の念と謝罪の意思を表明するに至っていること、被告人はこれまで問題行動を起こしていない一九歳の少年であり、教育による改善更生の可能性も認められること、被告人の両親が、借金までして本件窃盗の被害者との間で示談を成立させていることなど被告人のために斟酌すべき諸事情も認められるが、しかし、本件は、三回にわたる深夜の店舗荒らしと、四回目の店舗荒らしに際し、駆けつけた警察官を警察官と知りながら、逮捕を免れるため刺殺した凶悪・重大事犯であり、被告人は共感性や感受性に乏しく、人の気持ちには無頓着で、関心も向きにくい性格特性から、本件の強盗殺人等を安易に決意・実行したのであり、未だその罪障感も十分とは認め難いこと、少年による刃物を用いた殺傷事犯が続発して重大な社会不安を醸成し、その早急な対処が求められている現在の社会情勢や、保護・監督者の立場にある被告人の父が警察官の落ち度を主張して遺族と示談をしようとしないこと等を考え併せると、現段階では酌量減軽の措置を施すのは相当ではなく、法定刑の下限である無期懲役は免れないというべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(検察官山本佐吉子、国選弁護人横田哲明各出席)

(求刑―無期懲役、柳刃包丁及びバタフライナイフ没収)

(裁判長裁判官  裁判官 廣瀬健二 北岡久美子)

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